なぜ労組は政治活動をしなくてはならないのか(追記アリ

承前
 
労働者としての権利を主張したいけど平和運動政治運動別にしたくない」って労働者の立場は?
なんで混ぜるの?
と増田はおっしゃる。
上記増田だけでなく記事へのブクマも含めて、「労組が政治活動をするのは当然であり、政治活動は労組の本分ともいえる」という道理がわからない人が大量発生しているようなので、その理由を述べてみよう。
 
 

以前にも何度かはてダのブログにも書いたが、僕は地方都市のユニオンにかかわっている。
ユニオンに労働問題を持ち込んでくる人たちは、基本的に零細企業や派遣、非正規雇用の労働者が多く、相談内容はパワハラ・セクハラ、不当解雇、有給取得などに関するものが多い。リンクした増田のいっている意味で、組合員の現実的な利益を守るための活動を行っているわけだ。
もちろん、ひどい事例が集約されて駆け込みがあるという面はあるにしても、「サビ残を拒否して反抗的だからクビ」とか「有給取得を主張したから減給」とか「暗いやつで気に食わないからいじめてやる」とかいうあまりにもムチャクチャな雇用主は零細企業にはさして珍しくもないのである。「日本では労働者の権利が強すぎる」から解雇自由にしろとかいう「識者」もいらっしゃるが、中小零細企業の実態を知れば、そんなものは笑えない戯言だね。
 
 

2

労組として雇用主と折衝する機会はよくある。いわゆる団体交渉、団交というやつ。団交の場で僕らユニオンがもっともよく使う道具は、労働法や社会保険関連法である。
「うちの就業規則では試用期間は1年だから、1年間は厚生年金も社会保険もいれなくていいんだよ」
労基法では試用期間は14日だし、そもそも試用期間中でも年金も保険もいれなくちゃいけないのです。それ真っ黒の違法ですな」
「うちの就業規則ではそれでいいんだ!」
就業規則よりも法律が優先。御社の言い分は出るとこに出たら絶対にまるで通りませんけど、裁判やります?」
などというやりとりは何度もしている。
 
 
無茶なことを言う雇用主には、「違法」という指摘はそれなりに有効だ。「労働法なにそれおいしいの?」な雇用主はやっていることが違法スパイラルであるので、あれもこれも違法とつめていくことで優位な交渉ができる。ブラック職場では労働者側が無知であったり立場が弱かったりで雇用主はやり放題なのだが、いったん腹をくくって法をもって戦う気になれば勝率は高い。
 
 
ただし
違法状態に居直るブラック雇用主というのは厄介である。
「法にはそう書いてあるけど、書いてあるだけで罰則ねーじゃん。そんなの知らねえなあ」
本当にこういうやついるんですよ。
相手がタチが悪ければ悪いだけ、こちらも有効手段が少なくなるという理不尽な話となる*1
 
 

3

法に基づいて組合員の権利を守るためには、法がもっと使い勝手のよいものになってほしい。ここで細かく書くのは面倒だからやらないが、労働法関係は罰則規定があるべきものに罰則がなく、罰則規定があってもその運用において実際に罰則が適用されることが多くない。一例だけあげると、有給取得させなくても2019年3月まで罰則がなかったし、違法な残業は懲役刑まであるけどそれで雇用主がブタ箱にぶち込まれた例ってのはほとんどない(あったら教えて)。電通の過労死事件でも罰金たったの50万だもんね。
 
 
労働者のリアルな権利をリアルな生活を守るためにもっとも有効で現実的な方法のひとつが法改正なんです。
労働者のための法律を国会で通すためにはどうすればいい?
政治活動するしかねえだろ?
労働者の権利を擁護する政党を組織的に応援する以上に現実的で有効な労組のやるべき活動ってそうそうないぞ。まさに労組の本分だね。
 
 
悪質な残業には、現行でも懲役刑もありえることになってるけど、実際には適用されない。悪質な残業はやり放題だ。法の運用を変える必要がある。しかし、法の運用を変えるためには、国会でガンガン問題にしなければならないし、また労基署の人員増なども考えなくてはならない。
それには予算をくまなくてはならない。
ええ、これももちろん政治です。政治的な影響力を持たなくてはならない。
 
 
冒頭にリンクした増田をはじめ、ブクマで「労組が政治をやる理由がわからない」とかおっしゃってくれちゃっているお歴々は、こんな簡単な道理もわからんの?
労働者の現実的な利益を守れ、みたいなことを言っているくせに、労働者の利益を現実的にどうやったら守ることができるのか考えたこともないだろ、おまえら。
 
 

4

基本的なところはもう終わってるが、いわゆる護憲活動や平和活動との関連についても述べておく。
まず護憲だが、労働者の権利と諸人権というのはもちろん切っても切れない関係だ。デモやストなんかについては、自由権とりわけ表現の自由のいち形態として捉えるという考え方が最近の憲法学でもでてきているようである。なににしても、その憲法改正案からも明らかなように、人権を制約したがっている自民党に労組が反対するなんて当たり前じゃん。
平和活動についてだけど、戦時中の日本の労働条件ってどんなもんだか知ってるか? 月月火水木金金って知ってるか? 土日なんてなく働けって政府がいってたんだぞ。で、休みなく働かせるために、工場労働者に覚せい剤配ってたの知ってるか? 軍需物資運搬のために民間船が大量に徴用され、軍需物資を運んでいるがゆえに沈められ、労働者が大量に亡くなったのを知ってるか? 慰安婦問題や徴用工問題も、あれは基本的に労働問題として考えるべきだぞ。とにかくな、労働者の現実的な待遇を考えたら、戦争ってのはもう最悪もいいところなんだよ。
 
 
そもそも戦時中に労組がどんだけ弾圧されたと思ってんだ?
特権階級の利益のための政治をする連中ってのは、例外なく労組が嫌いなんだよ。労組ってのは特権のない連中の権利を擁護するためのものだからな。侵略戦争ってのは特権階級が儲けるためにおっぱじめるものであるから、それに労組が反対するってのは当たり前もいいところだ。
 
 

5

ついでに、「政治活動とか平和活動とか、余計なことをするから労組の組織率が落ちてんだよ」論にも、あくまで私見としてだが反論しておく。
 
 
労組の影響力が目に見えて落ちてくるのと非正規雇用の労働者(派遣だの契約社員だの)が増えることは連動しているとよくいわれる。日本の労組は会社別の正規雇用の集団であることが多く、うちわでの権利擁護には熱心でも非正規雇用労働者の権利擁護にはあまり熱心とはいえなかった。日本の労組が会社別であることは、日本型雇用と密接に関連した問題で、会社別労組が非正規労働者を自分の問題と考えなかったことは仕方ない一面があるとはいえ、もっとなんとかすべきだった。
いわゆる正社員と非正規社員は身分制になぞらえることがある。非正規雇用の労働者から見れば、「労働者の権利」なんてものは正社員という既得権益の保持に見られても仕方ない。企業の都合による非正規雇用の拡大、それに続く正社員の特権化を許すべきではなかったんだ。
 
 
例えば一連の派遣法の改悪。
もちろん労組は自民党の派遣法改悪に反対はしてたよ。でももっともっと政治活動をして派遣法改悪を阻止すべきだった。大企業の正規雇用が中心の労組にとって、派遣ってのは自分たちの問題ではなかった。大企業の労組は、派遣社員の待遇という他人事に政治的に関わるよりも、自分たちの利益にかまけていたんだよ。
いいか、増田やその同調者がそうするべきだといっているように、大企業の労組は自分たちの利益を優先して、派遣法の改悪という政治的な案件を本気でやらなかったんだ。それで今の有様だ。
 
 
自分たちの正当な利益を擁護するのは当然だ。しかし、自分たちの利益だけを追求していくと、特権とか既得権益保持に流されちゃうわけだ。挙句の果てに「労働貴族」ですよ。
平和運動や護憲活動が悪いんじゃない。特権化がガンだ。増田の言うとおりにした結果、特権化して非正規雇用労働者を取り込めなくなったのが今の労組だ。
 
 
 

6

とまあ、こんなことを書いてきたが、僕自身は平和活動とか護憲活動の類にはほとんど顔を出していない。確かにいろいろとピントのずれているところは多々あると僕も感じる。
市議会議員でもっとも糞でほんとになんでこんなにこいつは糞なんだとおもうくらいひどい糞議員が、地元のでかい会社の労組の推薦だとかいうゲロ臭い事例も知っている。
活動している人たちのマウントのとりあいにはうんざりだ。
3.11当時の低線量被曝でデマ同然のことを言い出した人がいたことも決して忘れていない。
要するにな、僕も労組にはいいたいことが山ほどあるんだよ。
 
 
しかしね
政治活動をしているから駄目だ、みたいな言い草は問題外。
労組に政治活動は絶対的に不可欠。
労働者の現実の生活を守るためには日常的な権利取得も重要だがそれだけでは足りない。
労働者のための法を通し、労働者の生活のための予算をくまなくてはならない。
この辺の当たり前の道理はわきまえてほしいもんだ。

 

 

追記 5/9 14時ごろ

千客万来で少々おどろいている。また、応答の必要も感じている。

週末から週明けくらいまでに、ブコメ応答の記事をあげる。

「なぜ労組は瀕死のくせに護憲や平和主義にリソースぶっこむのか」

について、僕なりの解説をすることを中心としていくつか応答する予定。

 

*1:まあ、あんまりあくどい相手だと、自宅や会社近くで街宣やったりとかいろいろやり方もあるのだがw